vol.31 駅の遺伝子 小田敏夫
小さな旧駅舎の頃から、岡本一丁目、それも駅の真ん前に住み始め、本山駅の姿を眺めてきた。
九階の自室からは、瓦屋根の駅舎とホーム全体が見渡せた。
新築工事が始まり、仮駅舎となった。大きな囲いができ、外から様子が見えなくなっても、ベランダからは工事の進み具合がよくわかった。
暑い夏の日も、寒い冬の夜も工事は続いた。大きなクレーンが長大な鉄骨を吊り上げて、作業の人達が、それを組み上げていく様子をずっと眺めた夜もあった。
摂津本山駅は、元々、地域の人達の熱意と尽力によって誕生した。そのおかげで、岡本や本山の、今の姿があると言ってよい。旧駅舎は、小さいがゆえにすぐに電車に乗れて、まことに使い勝手の良い駅だった。新駅舎は、橋上化され大きくなった分、昇り降りに歩く距離が格段に長くなった。エレベーターやエスカレーターが、少しでも多くの人達の助けになってくれたらと思う。
供用は始まったが、駅の完成にはまだまだ時間がかかる。全てが出来上がったとき、その随所に、旧本山村や旧駅を象徴する様々な意匠を目にすることができよう。それらを単にデザインとして見るのではなく、そこから私達の街と駅の歴史を感じとってほしいのである。
本山駅をこの地に誕生せしめた人達の思いが、新しい駅にも遺伝子のように受け継がれていくことを願って止まない。
小田敏夫